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神戸地方裁判所 平成12年(ワ)96号 判決 2000年11月16日

反訴原告

籾浦朝明

ほか一名

反訴被告

和光運輸株式会社

ほか一名

主文

一  被告らは、連帯して原告らに対し、各々金二八〇九万八五七五円及びこれらに対する平成一〇年一二月二三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、これを四分し、その一を原告らの負担とし、その余を被告らの負担とする。

四  この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、連帯して原告らに対し、各々金三七八二万九三九八円及びこれらに対する平成一〇年一二月二三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決並びに第1項につき仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

との判決

第二当事者の主張

一  請求原因

1  交通事故の発生(以下「本件事故」という。)

(一) 発生日時 平成一〇年一二月二三日午前〇時一七分ころ

(二) 発生場所 神戸市長田区一番町一丁目二番一号先路上

(三) 加害車両 大型貨物自動車(京八八か一一六五)

(四) 右運転者 被告田方正一(以下「被告田方」という。)

(五) 右所有者 被告和光運輸株式会社(以下「被告会社」という。)

(六) 被害車両 自転車

(七) 右運転者 訴外亡籾浦泰一(以下「泰一」という。)

(八) 事故態様 被告田方は、加害車両(タンクローリー、以下「被告車」という。)を運転し本件事故発生場所の左側にあるLPガススタンド(以下「本件スタンド」という。)に入るため左折したところ、車道に沿って設置された歩道(以下「本件歩道」または単に「歩道」という。)上を被告車後方から被害車両に乗り走行してきた泰一に衝突し、同人を轢過した。

2  責任原因

(一) 車両が路外の施設に入るため歩道を横断する場合、運転手は歩道に入る直前で一時停止して、歩行者等の有無を確認し、歩行者等の通行を妨害せずその生命身体に危害を加えないよう走行する注意義務がある(道路交通法第一七条参照)。

(二) しかしながら、被告田方は、路外の本件スタンドに入る際、歩道直前で一時停止をせず、一瞬左サイドミラーで後方を確認した後は、被告車を本件スタンド所定の位置に停車させるため、目印となる前方の事務所建物を注視して、漫然時速約二〇キロメートルで歩道に左折進入したため、歩道上を被告車の左後方から走行してきた泰一を発見することができず、同人に衝突し、同人を轢過した。

(三) このように、被告田方には、歩道上直前で一時停止せず左後方から進行してくる自転車等の有無を十分に確認しなかった過失により、本件事故を発生させたのであるから、民法第七〇九条に基づき、原告らに生じた後記損害を賠償する義務がある。

(四) 被告会社は、被告田方の使用者であり、本件事故はその業務中に発生し、また被告車の所有者であるから、民法第七一五条及び自動車損害賠償保障法第三条に基づき、原告らに生じた後記損害を被告田方と連帯して賠償する義務がある。

3  泰一の死亡

泰一は、本件事故の結果、左前胸部圧迫による左肺挫傷を原因とする失血により、平成一〇年一二月二三日午前〇時一七分ころ死亡した。

4  損害

(一) 治療費 金二二万四六六〇円

神戸市立中央市民病院

(二) 交通費 金四八万六六四〇円

(1) 平成一〇年一二月二三日に本件事故の一報を受け、原告ら及び泰一の姉妹が自宅のある北海道江別と神戸との往復に要した費用。

ア 一二月二三日(原告ら)

江別・自宅から新札幌(タクシー) 二七〇〇円

新札幌から新千歳空港(JR) 二×八五〇円

新千歳空港から関西空港(飛行機) 二×三万一二五〇円

関西空港から兵庫(JR) 二×一八三〇円

兵庫から長田署(タクシー) 六六〇円

イ 一二月二四日(泰一の姉妹、原告らが負担)

江別・自宅から新札幌(タクシー) 二七〇〇円

新札幌から新千歳空港(JR) 二×八五〇円

新千歳空港から関西空港(飛行機) 二×三万一二五〇円

関西空港から三宮(バス) 二×一八〇〇円

三宮から神東社(タクシー) 六六〇円

ウ 一二月二五日

神東社からアパート(長田区三番町にあった泰一の下宿先) 二七四〇円

エ 一二月二六日

長田からシャトルターミナル(タクシー) 二五〇〇円

シャトルターミナルから関西空港(シャトル) 四×二二〇〇円

関西空港から新千歳空港(飛行機) 四×三万一二五〇円

新千歳空港から新札幌(JR) 四×八五〇円

新札幌から江別・自宅(タクシー) 二七〇〇円

(2) 平成一一年二月一四日、長田警察署に事情聴取のため出頭し、泰一の下宿先のアパートを片付けるために、原告ら家族四名が自宅のある北海道江別と神戸との往復に要した費用。

江別・自宅から新札幌(タクシー) 二七〇〇円

新札幌から新千歳空港(JR) 四×八五〇円

新千歳空港から関西空港(飛行機・往復) 四×四万二八〇〇円

関西空港から三宮(バス) 四×一八〇〇円

アパートから長田警察署(タクシー) 六六〇円

長田警察署からアパート(タクシー) 六六〇円

三宮から関西空港(バス) 四×一八〇〇円

新千歳空港から新札幌(JR) 四×八五〇円

新札幌から江別・自宅(タクシー) 二七〇〇円

(三) 葬儀費用 金三四七万七六五〇円

(1) 神戸分 金二六一万〇〇五〇円

泰一は、本件事故により、平成一〇年一二月二三日に死亡した。原告らは、自宅のある江別に戻り葬儀を執り行おうとしたが、年末のため遺体を飛行機で運搬することができず、茶毘に付するため、同月二五日、神戸で葬儀を行った。

(内訳)

葬儀費用 二三九万〇〇五〇円

御布施 二二万〇〇〇〇円

(2) 江別分 金八五万五六〇〇円

泰一の年末の突然の事故死のため、北海道に住む泰一の親類縁者、友人らは神戸で行われた葬儀に出席できなかったため、北海道江別に戻った後、原告らは葬儀を行った。

(内訳)

葬具他一式 四〇万五六〇〇円

庫院使用料 五万円

院号料・御布施 四〇万円

(3) 四九日 金一万二〇〇〇円

(内訳)

庫院使用料 一万二〇〇〇円

(四) 逸失利益 金六六〇一万七二〇六円

泰一は、昭和五三年六月二七日生まれの独身の男子であり、死亡当時二〇歳で、神戸市立外国語大学二年に在学中であった。

平成一一年賃金センサス産業計・企業規模計・男子労働者・大卒・全年齢平均による収入金額六八九万二三〇〇円から、生活費五〇パーセントを控除した額(三四四万六一五〇円)に、泰一の就労可能年数(四七年)に対応する年利四パーセントのライプニッツ係数(二一・〇四二九)から稼動開始年齢までの年数(二年)に対応する年利四パーセントのライプニッツ係数(一・八八六一)を控除した係数(一九・一五六八)を乗じた額。

(五) 慰謝料 金三〇〇〇万円

(1) 泰一は、原告らの子で唯一の男子であり、自らの夢を実現させるため生まれ故郷から遠く離れた神戸市立外国語大学に進学し、スポーツや勉学に励む明るく快活であり、将来年老いた両親の面倒を見ることも考えていた、心優しい青年であった。

このような泰一が歩道上の安全を十分に確認しない被告田方の無謀な運転により、一瞬にしてその生涯を終えてしまったとき、その無念さ、悔しさを推し量ることはできない。

(2) そして、息子である泰一を失った原告らの悲しみ、悔しさ、苦しみもまた泰一の無念さに優るとも劣らない。

このような原告らに対し、被告らは、神戸で行われた泰一の通夜の会場で、被告会社の関係者が一度会って謝罪しただけで、被告田方に至っては、謝罪の手紙すら出していない。

(3) また、示談交渉についても、被告らは、加害者でありながら、被害者である原告らに納得、理解を得るような態度を微塵だにしたことはなく、不誠実極まりない。

(4) 原告らは、被告らの呈示した示談案を拒絶したわずか一週間後に債務不存在確認訴訟(平成一一年(ワ)第一八〇一号、以下「本訴」ともいう。)の訴状を受け取った。本訴を神戸で行うことについて、何故被害者が加害者の元へ行かなければならないのか全く理解できなかった。

(5) このような、泰一の死から本件本訴の訴状送達までの一連の事実を考慮すれば、慰謝料は金三〇〇〇万円が相当である。

(六) 雑費 金六万七三五〇円

泰一の下宿先に置いてあった家財道具を実家のある北海道江別まで送った引越費用

(七) 弁護士費用 金八〇〇万円

原告らは、本件訴訟の追行を委任し、金八〇〇万円を支払うことを約した。

(八) 以上のとおり、原告らが被った損害は合計一億〇八二七万三五〇六円である。

5  既払金

被告らは、原告らに対し、本件事故の賠償金の一部として三二六一万四七一〇円を支払い、原告らはこれを受領した。

6  相続関係

原告籾浦朝明(以下「原告朝明」という。)は泰一の父であり、原告籾浦久子は泰一の母である。泰一に配偶者及び子はない。

7  よって、原告らは、本件事故による損害賠償請求権に基づき、それぞれ金三七八二万九三九八円及びこれに対する本件事故日である平成一〇年一二月二三日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1(交通事故の発生)の事実は認める。

2、同2(責任原因)の事実のうち、被告車の速度が時速約二〇キロメートルであったことは否認し、その余は認める。

被告車の速度はせいぜい時速約一五キロメートルであった。被告車は大型貨物自動車であり、左折するときは大回りする必要があるのみならず、実際の左折状況も甲第一六号証添付の「被疑車両左折状況見取図」のとおりであるから、時速二〇キロメートルでの路外左折は無理である。

3  同3(泰一の死亡)の事実は認める。

4  同4(損害)の事実のうち、(一)(治療費)は認める。

5  同(二)(交通費)はいずれも否認する。

いずれも本件事故と相当因果関係がない。泰一につき看護の必要等があったとはいえず、同人に対する情愛に基づき支出されたものであるから、(1)の交通費は認められない。

警察の事情聴取に協力することはむしろ国民としての義務であるから、(2)の交通費は認められない。また、下宿先を片付ける必要があったとしても、本件事故との相当因果関係はない。

6  同(三)(葬儀費用)は、いずれも否認する。

葬儀関連費用としては、一〇〇万円程度に限り本件事故と相当因果関係のある損害というべきである。

7  同(四)(逸失利益)については、控除すべき中間利息の割合を年率四パーセントとすることは否認し、その余は認める。

なお、原告らが「平成一一年賃金センサス」として主張するのは、平成一一年度版(平成一〇年度の賃金構造基本統計調査)賃金センサスを意味すると思料される。

控除すべき中間利息の割合は、民事法定利息に準じて年率五パーセントとして計算するのが相当である。

8  同(五)(慰謝料)の主張は否認ないし争う。

被告田方の過失の内容及び泰一の過失等にかんがみれば、高額にすぎる。

9  同(六)(雑費)は否認する。

本件事故とは相当因果関係が存しない。

10  同(七)(弁護士費用)は否認する。

高額にすぎる。

11  同5(既払金)の事実のうち、原告らの損害填補額が合計金三二六一万四七一〇円であるという限りで認める。

損害の填補額の具体的内容は次のとおりである。

(一) 被告車付保の任意保険会社(兵庫県交通共済)から神戸市立中央病院に対し、二二万四六六〇円が支払われた。

(二) 被告会社から原告らに対し、二三九万〇〇五〇円が支払われた。

(三) 被告車付保の自賠責保険(東京海上火災保険株式会社)から原告らに対し、三〇〇〇万円が支払われた。

12  同6(相続関係)の事実は認める。

三  被告らの主張

1  本件事故当時、泰一は自転車を運転していたが、歩道と車道の区別のある道路においては車道を通行しなければならないところ、泰一は車道を通行していなかった。確かに、本件衝突地点の約一〇メートル東方からは歩道上を自転車の通行が可能とされるが、本件事故現場付近が安全な場所とはいえないし、まして歩道上の通行が許されるものではない。

2  被告車はゆっくりとした速度で本件道路を左折したのに対し、泰一の自転車はかなりの速度で本件歩道を東方向に進行しており、泰一には自転車の速度を出し過ぎていた過失がある。

また、泰一は、被告車が左折する際には周囲の注意を喚起するためチャイム音が鳴るのに、これに気づかず、自転車のハンドルを切ったり、急制動するなど、事故を回避する措置を採ることなく被告車に突っ込んでいったことは、著しい前方不注視をしていたものである。

3  本件事故は、被告田方が一旦停止した上で左折を開始していれば発生しなかったといえるか疑問が残る事案であるといえ、泰一には少なくとも三割程度の過失があるというべきである。

理由

一  本件交通事故が発生したこと(請求原因1)及び本件事故により泰一が死亡したこと(同3)については、当事者間に争いがない。

二  責任原因及び過失割合

1  責任原因(請求原因2)の事実のうち、被告車の速度が時速約二〇キロメートルであったことを除き、その余はいずれも当事者間に争いがない。

乙第一二号証の被告田方に対する刑事事件の判決中には、被告田方が時速約二〇キロメートルで左折進入した旨が詳細に認定されているほか、甲第八号証の被告田方に対する起訴状の公訴事実には、被告田方が時速約二〇キロメートルの速度で左折進入した旨が記載されており、甲第二五号証、第二七号証の被告田方の各供述調書にも同旨のことが記載されているが、証拠(甲一六、一八、一九、二四ないし二七、三一、三三)及び弁論の全趣旨によれば、本件事故を目撃した本件スタンドの従業員らの供述調書中には被告車の速度は時速約一〇ないし一五キロメートルである旨が記載されているほか、本件衝突地点から被告車が停止した地点までの距離が一三メートルしかなく、しかも被告車は定位置に停車すべく目標地点を注視しながら本件スタンドに入ってきており、被告車が左折を開始した際、進行してくる泰一に気付いた本件スタンドの従業員が衝突するまでの間に被告田方に対して、「あかん、あかん。」と叫んでいることが認められ、右事実からすると、被告車の速度はせいぜい時速約一五キロメートルであったと解せなくもない。

もっとも、被告車の速度が時速約二〇キロメートルであったとしても、あるいは時速約一五キロメートルであったとしても、本件損害賠償請求訴訟においては、被告田方の過失の割合につき消長を来すものではない。

2  本件事故態様について

(一)  証拠(甲一二ないし一六、一八ないし二〇、二四ないし二七、三一、三三、三七の1ないし12)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

(1) 本件事故の発生場所付近には、東西方向に伸びる神戸市道中央幹線と南方に伸びる市道永沢線(以下、「本件道路」という。)がT字型に交差しており、同交差点の南東角には、本件スタンドがある。本件道路は、片側二車線であり、右交差点から十数メートル南のところで東方向に大きくカーブしており、本件スタンドは、幹線道路と本件道路によって三方を囲まれている。本件道路に沿って本件歩道が設置されており、本件スタンドの南側の幅員は約四・六メートルである。

本件道路と本件歩道とは縁石で画されているが、本件事故現場の本件スタンドの南側入り口付近においては、車両の進入が容易になるように縁石が一段低くなっている。また、本件事故現場付近は本件スタンドが深夜営業しているため、夜間でも明るく、本件スタンドの西側の本件歩道には本件道路との間に低い植え込みが設置されており、本件事故当時本件歩道上には植え込みの前に駐車車両が二台あったが、その他視界を遮るものは少なく、事故現場付近の見通しは概してよかった。本件事故当日は現場は晴れており、路面も乾燥していた。

(2) 被告田方は、被告車を運転して本件道路を東方向に進み、前記入口から本件スタンドに入ろうとしたのであるが、車両が道路外の施設に出入りする場合には、徐行した上、歩道の直前で一時停止し、歩道上の安全を確認する義務があるのに(道路交通法第一七条第二項)、これを怠り、左方から進行してきた泰一の自転車に気付かないまま、漫然時速約一五ないし二〇キロメートルで左折した。

そして、被告車は、本件歩道上を普通より早い速度で進行していた泰一の自転車の進路を遮るような形で自己の左バンパー部分に衝突させて転倒させた上、そのまま泰一に気付かずに進行し、泰一を左前部後輪により轢過した。被告車が本件スタンドに入ろうとして左折を開始した際、進行してくる泰一に気付いた本件スタンドの従業員が被告田方に対して、「あかん、あかん。」と叫んだが、被告田方は、右叫び声や衝突音には気付いたものの、停止目標地点を注視していたため、進行して来た泰一には全く気付かず、また、本件事故が起こったことも気が付かなかった。

(3) 一方、泰一は、前記のとおり、本件歩道上を普通より早い速度で進行していたものであるが、既に左折を始めていた被告車にも、また、「左に曲がります。」という被告車からの音声にも気付かなかったようであり、自転車のハンドルを切ったり、急制動するなどの事故を回避する措置を採ることなく、ほぼ直進したまま被告車に衝突している。

(二)  以上の事実からすると、被告田方には、歩道の直前で一時停止しなかったこと、歩道に進入する際に左後方の安全を十分に確認すべきであるのにこれを怠ったこと及び歩道を横断する際、異常な事態が生じた場合に即座に停止できるように最徐行すべきであるのにこれを怠った過失が認められる。また、泰一にも、普通より早い速度で進行していたにもかかわらず、前方を十分注視していなかった過失があるといわざるを得ない。

(三)  なお、被告らは、本件事故現場である本件歩道は歩行者専用であり、自転車は通行が許されていなかった旨主張する。

確かに、甲第一三号証の実況見分調書や第二〇号証の捜査復命書中には本件スタンドの南西角から約一九・一メートルの地点に自転車及び歩行者専用規制終始点標識(歩道上を自転車が通行してもよい旨の道路標識)が設置されており、本件事故の捜査担当者も本件事故現場付近の本件歩道は歩行者専用であり、自転車の通行が禁止されているものとして捜査していたようであるが、乙第一〇号証及び第一一号証添付の兵庫県警察本部交通部交通規制課長の回答書によれば、本件歩道は、本件スタンドの南西角から自転車通行の許される歩道であるが、同所に標識を設置すると本件スタンドに進入する大型車の通行の障害になるために、前記場所に設置したにすぎないことが認められるから、被告らの右主張は理由がない。

3  過失割合について

右認定事実によれば、本件事故における被告田方の過失割合は、九割と認めるのが相当である。

三  損害

1  損害額

(一)  治療費 金二二万四六六〇円

泰一の治療費として二二万四六六〇円を要した点については、当事者間に争いはない。

(二)  交通費 金一四万七七六〇円

本件事故のように、遠隔地で生活を送る家族が事故により死亡した場合、遺体の確認及びその引き取り等の理由により、遺族において自宅と事故地とを往復する交通費は当該事故と因果関係があるものと認めるのが相当である。これを本件についてみるに、原告らの要した交通費のうち、平成一〇年一二月二三日から同月二六日にかけて原告らが自宅のある北海道江別と神戸との往復に要した費用一四万七七六〇円は、本件事故と相当因果関係があると認められる(乙一三ないし一六、一八の1・2)。

原告ら主張のその余の交通費は、泰一に対する情愛に基づき支出されたものや警察の事情聴取に協力するためのもの等であり、本件事故との相当因果関係を認めることはできない。

(三)  葬儀費用 金一五〇万円

証拠(乙二ないし八、原告朝明本人)及び弁論の全趣旨によれば、泰一の葬儀関係費として、三四七万七六五〇円を要したこと、特に、本件事故が一二月二三日であり、原告らは、自宅のある江別に戻り葬儀を執り行おうとしたが、年末のため遺体を飛行機で運搬することができず、茶毘に付するため同月二五日に神戸で葬儀を行ったこと、そのため、北海道に住む泰一の親類縁者、友人らが神戸で行われた葬儀に出席できなかったので、北海道江別に戻った後、原告らは葬儀を行ったことが認められるので、本件事故と相当因果関係のある葬儀費用としては、一五〇万円を相当と認める。

(四)  逸失利益 金六一二五万一八七〇円

(1) 泰一は、本件事故当時二〇歳の大学生であり、本件事故に遭わなければ、大学卒業後の満二二歳から満六七歳まで稼働することができたものと認められる。平成一一年版賃金センサス第一巻第一表の産業計・企業規模計・大卒・全年齢平均による収入金額金六八九万二三〇〇円を基礎とし、就労期間は、満二二歳から六七歳までの四五年間、生活費控除率を五〇パーセントとし、年五分の割合による中間利息の控除をライプニッツ式で行うと、その係数は一七・七七四であるから、六一二五万一八七〇円となる。

(計算式)

6892300×17.774×(1-0.5)=61251870(円未満切り捨て)

(2) なお、原告らは、我が国の経済状況及び預金金利が低水準にとどまっている状況から、中間利息の控除額の算定に当たり、年利四パーセントのライプニッツ係数を使用すべきであると主張する。

確かに、最近の金利状況に照らせば、定期預金等による資金運用によっても年五分の割合による複利の利回りでの運用利益を上げることが困難な社会情勢にあることは否めないところである。

しかしながら、損害賠償元金に附帯する遅延損害金については民事法定利率が年五分とされていること、過去の経験に基づいて長期的に見れば年五分の利率は必ずしも不相当とはいえないこと、個々の事案ごとに利率を認定することは極めて困難であること等の諸事情を総合的に考慮すると、逸失利益の算定における中間利息の控除方法については、年五分の割合によるライプニッツ係数によることが相当である。

したがって、この点に関する原告の主張は採用できない。

(五)  慰謝料 金三〇〇〇万円

証拠(乙一、二、一三、原告朝明本人)及び弁論の全趣旨によれば、泰一は原告らの唯一の男子であり、自らの夢を実現させるため生まれ故郷から遠く離れた神戸市立外国語大学に進学し、スポーツや勉学に励んでいたこと、泰一が歩道上を自転車で走行していたにもかかわらず、被告田方が歩道の安全を十分に確認しないで左折したため、被告車に轢過されて一瞬にしてその生涯を終えたこと、前記のとおり泰一が年末に遠隔の地で死亡したため、身内の者が北海道から駆けつけたり葬儀を神戸と北海道の二箇所で行わざるを得ないなど、原告らにとって現実にかなりの出費となっていること、唯一の息子を失った原告らに対する被告らの対応は必ずしも誠実とはいえず十分ではなかったこと、被告らの呈示した示談案を原告らが拒絶したわずか一週間後に本訴の訴状を受け取ったことが認められ、右事実に照らせば、原告らの固有の慰藉料を含め(原告らの主張にはこれが含まれているものと解する。)、泰一の死亡に基づく原告らの慰藉料として、金三〇〇〇万円が相当であると認める。

(六)  雑費

泰一の下宿の引越費用は、本件事故と相当因果関係があるとは認められず、仮にあるとしても、それは前記慰藉料に包含されるものと解するのが相当である。

(七)  原告らの損害額は、以上合計九三一二万四二九〇円となるところ、泰一にも前記のとおり本件事故に対する一割の過失があるので、八三八一万一八六一円となる。

2  損益相殺

原告らが被告らから三二六一万四七一〇円の支払を受けたことは、当事者間に争いがないから、差引損害額は五一一九万七一五一円である。

3  弁護士費用 金五〇〇万円

原告らが本件反訴の提起、追行を原告ら代理人に依頼したことは記録上明らかであり、右認容額及び本件訴訟の経緯にかんがみれば、被告らに請求し得る弁護士費用は、五〇〇万円と認めるのが相当である。

四  相続関係(請求原因6)については当事者に争いはない。

五  よって、原告らの本件反訴請求は、被告らに対し各々金二八〇九万八五七五円及びこれらに対する本件事故の日である平成一〇年一二月二三日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないのでこれを棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第六一条、第六四条、第六五条第一項を、仮執行の宣言につき同法第二五九条第一項を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 島田清次郎)

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